宮古島ワイドーマラソン

朝5:00宮古島ワイドーマラソンのスタート。
光に包まれていたスタートゲートを抜け、少し走るとあたりはもう闇に支配され、抗うのはランナーが持つライトだけとなる。
冬でも失われない南国特有の甘い熱気が僕を包んでいる。血がたぎる。自分が抑えられない。ウルトラ50kmまでの巡航速度は5分半。自分で決めた速度を破る自分がいる。
暗すぎて時計は見えない。体感で4分30~50。フルのレースに近い速度。

このレースは参加者の数がすくないので、人についていく意識を捨てるとすぐ一人旅となる。もうすでに直前に人はいない。ただ目の前にゆれる光の筋。
後ろに一人ついてきている。顔も名も知らぬ道連れ。共に走る。

ほほに当たる風の質が変わる。来間大橋。
闇が景色を奪う。海も島も見えない。でも僕の脳裏には前日の光に包まれた橋が残る。重ね合わせて走る。

折り返し、橋が終わると10km。応援の人からワイドー(頑張って)の声が飛ぶ。
少し気が緩んだところで、縁石に足をとられてしまう。転びはしなかったが、軽い捻挫。
よくあること。だが先ほどまでの速度は保てなかった。後ろについていた見知らぬ友が追い抜いていく。

ここからは本当に一人旅。速度を落として走り続ける。期せずして巡航速度となったか。
暗い道を走るが、中でも暗い場所を走るときには大会車が後ろから光をくれる。
僕のためだけの光。贅沢なおもてなし。

25kmを越えたあたり。夜が開けあたりが明るくなる。そのタイミングか、体から力が抜ける。脚に力が入らない。すでに時計は見える。6分台の後半から7分を超えることもある。
抜いていく人の数が増える。仕方ない。この先、辛いレースになるな。そう思いながら走る。30kmを過ぎても状態はあまり変わらなかった。
32kmあたりか、ふとしたタイミングで経過時間を見るとちょうど3時間を迎えていた。最初飛ばしたからか、思ったよりおくれてはいないな、そう思った。それでも走る速度は変わらない。
池間島が近付く。35kmを前にして急に力が戻るのを感じた。速度を戻す。5分台前半。やがて池間大橋。
煌く海。晴れがましい気持ちで橋を渡る。速度は落ちない。40km。4時間まで後11分半を残す。ここであるたくらみ。いままでウルトラではやったことのない、フルのサブ4。
5分台前半を保ちながら走る。やがて42.195kmの標識。通り過ぎるタイミングで、時間を確認する。3時間59分20秒。少し微笑みながらエイドに向かう。50kmの大エイド。
おにぎりやパン、ゼンザイやユシ豆腐(固まる前の豆腐)がならぶ。ゼンザイとユシ豆腐を立ったまま頂く。座ると旅立ちが辛くなる。座れない。気持ちの弱さは自覚している。

再スタート。エイド後の1,2kmは遅くなる。これは覚悟していた。ただそれを過ぎても、また状態が戻らない。前半25km過ぎと同じ状態。
フラットな前半に比べ、後半は勾配はそれほどではないがだらだらとした坂の上り下りを、何回も繰り返す。
海の青さに励まされながら、ゆっくりしたペースで懸命に走る。50km過ぎからは正確に.2.5kmごとにエイド。あえぎながら、数えながら次のエイドを目指す。
状態が変わったのは75kmのエイド。一緒になった人が話しかけてくる。僕より年配の人。

「辛いですね」「えぇ。でも80kmを過ぎてからはもっと辛くなりますよね」「はは。でもまぁとりあえず80kmにいってみないとね」

走り出す。脚に力が戻ってる。先ほどの人がついてくる。人につかれると、気持ちが持つのは僕が見栄っ張りだからかね。心の中で自分を笑う。

80kmは東平安名岬のあたり。絶世の美女マムヤが身を投げたという伝説でも知られる絶景の場所。このポイントだけは80kmにエイドがあるわけではなく岬を折り返し、1kmほど進んだ地点にある。
ここにも大エイド。ただここではもう食欲はなかった。お手洗いを使っている間に先ほどの人とは別れた。

走る。90kmを越える。前回はここまで速度が保てたのにここから走れなくなったことを思い出す。皮肉なことに今回は走れてる。勾配は先ほどと比べても厳しくなるがそれはもう知った範囲。
景色を楽しみながら走れてる。最後の1km。スピードを上げる余裕があった。走る。ゲートまでもう少し。前を走る人が見える。

宮古島ワイドーマラソンのゴールは赤絨毯。みんなそこを晴れがましい気分でとおりゴールする。人のゴールの邪魔をするくらいなら、後ろを走ったほうがよい。

自分に聞いてみる。前の人を抜いて、そのままその人の邪魔をしないだけの差をつけられるか。
大丈夫。行ける。さらにスピードを上げる。追い抜いてそのまんま全速力で、ゲートに突っ込む。ゴールテープを切って振り返る。大丈夫だった。

メダルを首にかけられ、記録を受け取り、屋外の控えコーナーで足を伸ばし寝そべる。

至福の時間。いまだ力を失わない午後4時の陽射しがちょっと邪魔だった。

記録:11時間3分40秒

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