木曽町グレートトラバース

8月30日朝。
目を覚ますと、ゴーッという換気扇の音…
を打ち消すような品のない雨の音。
木曽町グレートトラバース100kmウルトラマラソンの一日の始まり。
宿は4人の相部屋。一緒に宿で晩御飯を食べた仲。
昨日の夜だけど。

準備を済ませると、宿の人が車でスタート会場の小学校まで送ってくれた。
歩いても10分くらいの距離だが、「雨降っとるしなー」ということで。
そう、雨が降っている。激しく。

スタート10分前。
ゲートの前に集まって開会式。
「晴れていれば、本当にきれいな景色が見えます」
晴れていればね。
「今日の天気予報によると、一日中雨です」
だろうね。
スタート。

まだ暗い中を、立ち並んで応援してくれている人の前を抜け山に向かう。
高低図では最初の10kmは平坦なはずであるが、早速の勾配。
木曽路はすべて山の中である。
このレースの獲得標高は2275m。

スタートしてしばらく走るが、どうもウエストバッグの具合が気持ち悪い。
今日がおろしたてのこのバッグ、ベルトと一体ではなく、ベルトを通す型なので
揺れると妙にパタパタする。
立ち止まって、思い切り締め付けたりしてると、声がかかる。
「にゃんたさん(仮名)」
ん?なんでこんなとこに知り合いが…あ、相部屋で同室のお兄さん。
と、ここまで、気が回る前に「はーい」と返事をするぼく(^^;

雨は降っても降ってもまだ降りやまぬ。
帰りたいなー、と思って走ってると声をかけられる。
「今日はラッキーですね」
「???」
「晴れてたら地獄ですよ」
まあ、そういう見方もある…かな。

13kmあたりから。本格的に山道の始まり。
目の前の山に沿って、異様な角度で登っている道が見える。
引き返したいなぁ。
でも、このレースの規模は、400人程度。もたもたしてるとすぐに前後の人が見えなくなる。
だれもいないと怖いので一生懸命、前の人を見失わないようについていく。

トンネル。
結構長い。この間は雨がかからない。喜んで走る。スキップしてたかもしれない。
トンネルを出る前、ちょっと立ち止まってタオルで顔を拭いていると…
「にゃんたさん(仮名)」声がかかる。
今度は判る。相部屋のお兄さんが通り過ぎた。
「ほーい」と答えたが、ぼくいつ追い抜いたんだ?

雨の中を走る。
レースコースは3つ連なった山。
ひとつ目が大ボス、二つ目を中ボス、三つめを小ボスと名づけた。
大ボスを退治して、中ボスに向かうまえにトウモロコシ畑。
記憶にある唯一の平坦な道。
でも、ここでスピードがあげられない。ダラダラした道に、ダラダラした気分。
「健全な精神は健全な肉体に」の格言の逆バージョン。
もっとも、この格言は「健全な精神が健全な肉体にやどったらいいのになぁ(^^)」らしい。

トウモロコシ畑をこえ中ボスにかかったあたりで50km。時間は6時間。
ぼくの理想はいつでも、前半4時間半、後半5時間半。全行程10時間を目指す。
今回も無理。ちょっと凹む。
「ぼくの願いはいつかなうのでしょう。てやんでい、べらぼうめい」
江戸っ子で嘆く。
雨に打たれながら走る。

眠くなる。
「来たか」と思う。
このところ、レースに出ると必ず途中で眠くなる。
結構、本気で眠くって、欄干に腰かけて数分寝ることもある。
立ち止まって、上を向いて、眼をコシコシしてたりすると
…声がかかる。
「にゃんたさん(仮名)」お兄さん。
なんで?(^^;
「が・ん・ば・れ」
ありがとー。元気出た。
近くにあったトイレに行って、顔を洗って…
あれ?ずっと雨に打たれてるはずだから、顔なんでべしょべしょのはずだな。
まー、とにかく顔を洗って出直しました。

お兄さんには5km位先のエイドでトマト食べてた時に再び出会った。
「復活しました」
「そりゃよかった(^^)」

中ボスを制覇して小ボスへ向かう。
このレース道中で民家があると必ず人が立って応援してくれている。
手を合わせんばかりに「がんばってー」「ご苦労様」って。
ぼく、ただ遊んでるだけなのに。ご苦労様っていわれる資格なんてないのに。
後ろめたい気分と、声援がうれしい気分をないまぜに、一生懸命走る。

80km。小ボス登場。
最初の上り5km。かなりきつい。
お前本当に小ボスか?
ラス前のエイドで一休み。
「あと、峠までの5kmの上りが最後。がんばって」
頑張ってみるが、精神論だけで片付けられないくらいきつい。
今回は、一度も歩くことなく坂を上ってきたが、ついに歩きがはいる。
お前、本当は小ボスじゃないだろっ。
「ふっふっふ。漸くわかったようだな」
正体は…最後の大物「ラスボス」だった(^^;
こいつには100歩あるいて100歩走る技じゃ立ち向かえない。
20歩歩いて50歩走る新技を使った。

ラスボス攻略。
そして90kmの最後のエイド。
冷え切った身体のぼくに、ボランティアのおばさんがうれしい言葉をくれる。
「暖かい飲み物あります」
わーい(^^)
「お湯とホットアクエリアス」
(^^;(^^;…ちょっと趣味が違う。
なんて、わがままは言わない。お湯と美味しいカステラをいただきました。
てなことしてたら、エイドに入ったのが11時間5分だったのが出るころには15分になっていました。

さーて、と。でます。
エイドを出てからは下り。ぶっ飛ばします。
今回でぼく坂の下り方ちょっと上手になったかもしれない。
キロ5分を切るくらいでドタドタドタ。子牛をのーせーてー。それはドナドナドナ。
沿道に並ぶ人の数はますます増え、ハイタッチに差し出される手はかいくぐらんばかり。
というのは、ちょっと大げさ。
差し出される手に軽く触れると「ありがとー。いいことあるよ」
と言葉をくれる。本当にうれしくなって、できる限り一生懸命走る。
ゴールの小学校。ぬかるんだ校庭を少し突っかかって走る。
あれほど降ってた雨が止んでる。
ゴール。

帰る時間が気になったので、5分で着替え、更衣室を出る。
出たところで、声がかかる。
「あれ?にゃんたさん(仮名)」
相部屋のお兄さんでした。
ありがとーーー(^^)

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